Sports Illustrated 誌:「ザ・オータニ・ルール」(前編)

9月14日、米国の老舗スポーツメディアのSports Illustrated誌が大谷選手についての詳細な特集記事を公開した。同誌の主任ベースボール担当記者であるTom Verducci氏渾身の作である。特に記事を書かれる直前、8月18日デトロイトでのタイガース戦にリアル二刀流で出場した試合があまりにも印象的だった。大谷はこの試合8回を投げ切り、8回表には131mの特大弾で自らの勝利を祝ったのだった。大谷ファンなら必読のこの記事の日本語訳を紹介したい。


The Ohtani Rules

ザ・オータニ・ルール

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野球の偉大なシーズンとしてこれほど驚かされたことがあっただろうか?エンゼルスの二刀流大谷はピッチャーであり、バッターでもあることが至極当前のようにプレーしている。

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8月18日の深夜、ショーヘイ・オータニの友人であり通訳でもあるイッペイ・ミズハラの携帯が鳴った。エンゼルスのマドン監督からのテキストだった。それはかつて誰もやったことがない投打同時出場の負担にオータニの肉体が耐えられているか確認する日課のようなものだった。

マドンのテキスト「彼の具合はどう?」

この日のテキストは、オータニが翌日DHとして出られるか、それとも休養が必要なのかを確認する通常のテキスト以上の意味があった。オータニはこの日最も彼らしい試合をプレーしたばかりだった――8イニングを投げ、8つの三振を奪い、40号ホームランを打って、アウェイのタイガース戦に3対1で勝利した。

この試合の8回表、オータニがカーブを叩いたホームランは打球速度110マイル(時速176km)で430フィート(131m)飛んでいった。これは8回にカーブを打ったホームランとしては今シーズン2位の打球速度と飛距離だった。

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その裏、オータニは時速98.1マイル(157キロ)の速球でビクター・レイエスを三振に切って取った。今年の試合の終盤でそんな速さのボールで三振を奪った先発投手は他には2人しかいない。ゲリット・コールとジェイコブ・デグロームだ。

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わずか9分5秒の間で、27歳のオータニが野球史でもっとも驚くべきシーズンを送ったことを理解しなければならないのなら、ここがまさにその機会だった。8月も半ばの試合後半の8回、オータニは430フィートもかっ飛ばすと、すぐさま98.1マイルの速球を投げたのだ。文学ガイド本があれば「叙事詩」と書かれるだろう。

エンゼルスのベンチコーチ、マイク・ギャレゴ氏
「どう呼んでもかまわないが、私は古い人間さ。誰についてもこんなことは話さないんだが、今年彼がやっていることはもう二度と見られないだろう。オータニがまたやるのを別にすれば」

ミズハラはそのテキストを受け取るとオータニに確認した。9回マドン監督がライセル・イグレシアスに代えるまで、オータニは90球を投げていた。試合後、チームの宿泊するホテルに戻る前、オータニはヒジと肩をアイシングしながら、ズームミーティングで27人を超える記者と話をした。次の試合まで13時間しかない。マドンはテキストの返事を待っていた。

マドン監督
「とても簡単なやり方さ。オータニに自分自身のことは任せると言ってある。とにかく正直に言ってくれと頼んでいる。その代わりにオータニは自分の出番は自分で決められるのさ。私とGMのペリー・ミナシアン、ショーヘイ、イッペイは春のキャンプで話し合って、投球にもバッティングにも何の制限も設けないと決めた。ショーヘイは私に何でも知らせると説明したよ。脚が疲れていると言ってくれば、その時が休養が必要になる時だ。今のところ何も起きていないがね」

これが最大の問題になりそうだった:メジャー最長の投球を行ったナイトゲームの翌日にオータニはプレーできるのだろうか?

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マドンの携帯が鳴った。それはミズハラからの返事だった。

「オータニは明日、全く問題ありません。試合に出させてくれることを感謝します。今日は素晴らしい勝利でした🏆」

ミズハラのテキストはトロフィーの絵文字で終わっていた。

問題解決。オータニは出場を決断した。それだけのことだった。

マドン監督
「こっちで決めることはない。オータニがハンドルを握っているのさ」

このやり方は過去のエンゼルスのオータニの扱い方とは大違いだ。以前はオータニのエネルギーレベル、睡眠、炎症による痛み、栄養などをモニターするために複雑なデータを使用していた。つまり一塁にいる時、牽制球で何度ベースに頭からダイブして戻ったかといったデータを元に彼にプレーさせるかどうかを決めていた。エネルギーレベルでは5%ほどの違いでもエンゼルスがオータニを起用する際の黄信号になる可能性があった。

ギャレゴ・ベンチコーチ
「ガラスの家を破ったのさ。チームはオータニにベースボールをやらせ、いかなる方法でも止めるつもりはない。そのやり方でオータニはベースボールと付き合っているのだから」

オータニはデトロイト戦でストライク率77%だった。28人の打者に対しボール球はわずか21球だった。今シーズン、8イニングを90球以下で投げて、8三振を奪ったのはオータニが二人目だった。もう一人はヒューストンのザック・グリンキーで、彼はその次に登板するまで5日の休養を取った。

ギャレゴ・ベンチコーチ
「投球ストレスから回復するのに普通は2-3日かかる」

次の日の午後、オータニは1番バッターで試合に出た。2安打、2四球、2得点、1犠牲フライだった。身長193センチ、95kgの男は今シーズン14本目の内野安打を放った。多くの信じられない記録の中で最も目を見張るものは、8月終了時点でオータニは430フィート(131m)以上のホームランを最も多く打っており(15本)、加えてメジャー第2位の打席から1塁までの到達スピード(4.10秒)を誇っていることだ。彼より速いのはアトランタのオジー・アルビーズ二塁手しかいない。アルビーズはオータニよりも20センチも小さく、体重は20キロも軽いのだ。

これまでほとんど目にすることはなかった二刀流選手だが、ベーブ・ルースがそのベンチマークだった。ベーブ・ルースですら3ヶ月以上連続してフルタイムの二刀流だったことはなかった。彼は1918年のシーズン通して散発的に二刀流でプレーし、2019年も同様だった。オータニはフルタイムの二刀流をすでに6ヶ月連続でプレーしている。それなのにオータニは単に二つの役割をやっているだけではないことは驚きでしかない。単にやるだけでなく、エリートクラスのパフォーマンスと肉体的スキルの素晴らしさを見せつけた。プレーのレベルの高さはア・リーグのMVPの受賞を事実上確定的なものとし、リーグのベストピッチャーであることを示すサイ・ヤング賞候補にも値する。

9/14現在、オータニはメジャートップのヴラディミール・ゲレーロJr.に次ぐ44本の本塁打を打っている。もしオータニがゲレーロJr.との本塁打レースに勝利すれば本塁打王で20盗塁を記録したわずか5人の選手の一人となる ―― ウイリー・メイズ、マイク・シュミット、ホセ・カンセコ、アレックス・ロドリゲスらの仲間入りだ。オータニの現在のペースだと投手としても20先発以上して、勝率.810超えで9イニング換算で少なくとも10三振を奪ったメジャーで9番目の投手となる。

二つの役割を統合するとオータニは野球史のベン図で唯一無二の地位を占めている。少なくとも9本塁打を打ち、100三振以上を奪った唯一のプレーヤー。オールスターにピッチャーとバッターで選ばれた唯一のプレーヤー。オールスターで先頭打者を打った唯一の投手(その試合で先発して勝ち投手になった)。2015年スタットキャストが計測を始めて以来、オールスターのホームランダービーで500フィート(152m)以上の本塁打を少なくとも6本打った唯一のプレーヤー(しかもその翌日100.1マイルの速球を投げた)。

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タイガースのA・J・ヒンチ監督は8月18日の大谷劇場の翌朝、こう語った。
「昨夜の彼には本当に驚かされたよ。あんな人間離れしたものは忘れられるものじゃない。ピッチングの組み立ては芸術的だった。序盤は多彩な球で信じられないストライクを取り、試合終盤は球速重視になった。イニングが進むにつれて良くなっていったね。

バッターとしてはズバ抜けたパワーを持っている。ここ最近ではあんなすごいホームランは見たことがないよ。最も驚かされたことは彼がそれをいとも簡単にやっているように見えることだ。ムキになってやっているようには見えないし、フィジカル的にもメンタル的にもストレスがかかっているような印象は受けなかった。全てをコントロール下に置いている。彼のコンディショニングはエリート級と言うしかない」

最初の3シーズン、オータニはケガそしてヒジとヒザの手術に難渋してきた。昨シーズン終了後、リハビリはようやく終わりを告げ、彼は肉体の強化、特に下半身の強化に取り組んだ。その間どういう食べ物が自分にベストなのか血液検査から分析してダイエット方法も変えた。手応えを感じた彼はスプリングトレーニングでのミーティングで主導権を持ってようやく自分の負荷の制限を取り払うことに成功した。

カゴの中の鳥が解き放たれ舞い上がったのだ。二刀流こそ彼の望むものだった。オータニは18歳の時に二刀流選手になると心に誓った。フリーエージェントになった時、契約する条件は二刀流を認めることだとMLBのチームに告げた。投打どちらかを選んでそれで最大限のパフォーマンスを出す、つまり成功するには何かに特化することだというアメリカの狭量な考え方ではオータニの真髄を完全に見逃してしまう。

オータニの成功は間違いなく、投打どちらかに絞らなかったことによる。オータニに投打どちらかをやめるように迫ることは、ブルース・スプリングスティーンに歌うのをやめるか、それとも作曲をやめるかと迫るようなものだ。

オータニの心は二刀流をやることで喜びに満ちており、誰もがベストを尽くしている時にたどり着く禅の境地に至っているようだ。

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マドン監督
「オータニは素晴らしいユーモアのセンスの持ち主で、いつも気楽に笑ってジョークを言っている。去年に比べると昼と夜ほど違う。去年は自分自身が楽しんでいなかった。常に何かのストレスにさらされているように見えた。今年は間違いなくその反対にいる。彼のゲームには楽しさがある」

8月18日の先発前、コメリカ・パークのビジター用ブルペンはオータニのウォームアップを見ようと黒山の人だかりだった。

マット・ワイズ(エンゼルスの投手コーチ)
「オータニがウォームアップを始めると彼のルーティンを見ようと多くの人が集まってくる。それはもうイベントさ。後に下がって、ただただ驚いて『ワーォ』とうなってしまったことが何度もある」

彼を見ようと思ったらグズグズしていてはいけない。オータニは最初に室内ケージでのバッティング練習を行う。エネルギーを浪費しないようにグラウンドには足を踏み入れず、屋外で交代交代に打つバッティング練習はやらない。

夜に登板する試合はその後ブルペンへと向かう。オータニは何種類かの重さのボールを壁に向かって投げ、そのスピードをミズハラが測って適切な出力レベルになっているかを確かめながらウォームアップを行う。

ブルペンのマウンドに登るとオータニは20球ほどを投げるだけだが、それはほとんどの投手の半分ほどの量だ。

ワイズ投手コーチ
「オータニは全く自分自身で基調を決めている。間違いなくほとんどのピッチャーよりも少々早めにブルペンに入る。なぜなら彼は1番か2番の打順に入らなくてはならないからね。彼は全く慣れているけれどね。20球くらい投げたらダッグアウトに向かってぶらぶらと歩いて行き、自分のヘルメットをかぶって出撃準備完了だ。

オータニがエネルギーと労力をセーブするやり方は本当に信じられない。当番日の間のブルペンセッションすらも本当にごく軽いものなんだ。マウンドの傾斜を確かめて軽く投げるだけ」

(後編)に続く。

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