考察:なぜドジャースとエンゼルスは10年でこれほど差が付いたのか(3)(完)

エンゼルスとドジャースの最大の差は何か?

ここで昨年念願のワールドチャンピオンになったドジャースに目を転じてみよう。エンゼルスは21年ぶりの最悪の成績だったので、この20年で最もその差が拡大したシーズンと言えるだろう。

注目は先発投手だ。比較のため勝利、敗戦、投球回は162試合換算に補正した数字である。

年齢 勝利 敗戦 防御率 投球回 年俸(M) ドジャース加入
Clayton Kershaw* 32 16 5 2.16 58.1 31.00 2006年ドジャース
1位指名
Dustin May 22 8 3 2.57 56 0.57 2016年ドジャース
3位指名
Julio Urias* 23 8 0 3.27 55 1.00 2012年ドジャース
アマFA獲得
Tony Gonsolin 26 5 5 2.31 46.2 0.57 2016年ドジャース
9位指名
Walker Buehler 25 3 0 3.44 36.2 0.60 2015年ドジャース
1位指名
Ross Stripling 30 8 3 5.61 33.2 1.60 2012年ドジャース
5位指名
David Price 34 32.00 2020年レッドソックスからトレード

デービッド・プライスはコロナの影響でシーズン全休だったが、元々ムーキー・ベッツを獲得するために不良債権としてセットで引き取った側面が強いので働かなくとも全く問題はなかった。

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とにかく昨年のローテーションは全員ドジャースが自前で育てた選手だけでまかなった。見事である。自前なのでカーショウ以外は若手が多く、年俸も格安な選手ばかり。2020年エンゼルスで1番防御率が良かったのはバンディで3.29だったが、ドジャースでは5番手の先発にしかなれない。恐ろしいほどの充実ぶりだ。今後も4-5年は安泰だろう。

ドジャースのスゴいところは毎年優勝をしていながらチームの平均年齢を引き下げ、勝利の追求と選手育成が完全に噛み合っているところだ。

ドジャースの転換点は?

ドジャースが暗黒のマッコート時代からリーグ最強にまで成り上がった転換点を探ると、2014年10月にある一人の男を迎え入れた事にたどり着く。

アンドリュー・フリードマンだ。

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フリードマンは2005年に28歳の若さでタンパベイ・デビルレイズ(2012年よりレイズ)のGMに就任すると1998年の設立以来リーグのお荷物だったチームを2008年にリーグ優勝、ワールドシリーズまで導いた男だ。

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元々はウォール街の投資銀行ベアー・スターンズ(サブプライム問題で2008年破綻)などで働いたエリート金融マンで、デビルレイズ買収案件で現オーナーの知己を得てGMに転身した。

GM就任後は限られた予算の中で戦力を整え2008、2010、2011、2013年と毎年のようにチームはポストシーズンに進出した。そうしてフリードマンは若手有望選手のリクルートにおいては球界きっての目利きという評判を取るようになった。

ちなみにフリードマンがGM就任と同時に監督として迎え入れたのが現エンゼルスの監督ジョー・マドンだ。またエース級だったスコット・カズミアーや絶対的守護神のフェルナンド・ロドニーなどは後にエンゼルスが獲得しているがいずれもピークを過ぎており、美味しいところはレイズが、残りかすをエンゼルスが掴まされたという印象は否めず、エンゼルスの補強下手はここでも際立っている。

ドジャースがフリードマンを招聘

そのフリードマンに目を付けたのがドジャースだ。

ESPNの報道によると、ドジャースがフリードマンを高く評価するきっかけとなったのは2014年7月末にドジャースとレイズとの間で行われたデビッド・プライスのトレード交渉だった。結果としてそのトレードは成立しなかったが、その過程でフリードマンがプライスの交換要員として要求した選手にはトップ・プロスペクトはもちろんのこと、一般的には無名でもドジャース内部で密かに能力を高く評価されていたプロスペクトまで含まれていたことにドジャース幹部は驚いた。

ドジャースは精度の高いレイズのスカウティング、分析を統括するアンドリュー・フリードマンの優秀さを認識し、チーム強化の中心据えたいと考えるようになった。

2014年10月、ドジャースは事実上のGMに相当する「ベースボール部門上級副社長」のポストを新設すると、ここにフリードマンを迎え入れた。この時ドジャースはフリードマンに対し5年総額3500万ドルというフロントの人材としては破格の契約をオファーした。ドジャースがいかに彼に期待していたかが分かる。

しかしその後のドジャースの躍進ぶりをみると、フリードマンは球団の期待を遙かに上回るパフォーマンスを見せたと言えよう。ドジャースは元々レイズとは比べものにならない資金力を持ち、ホームのロサンゼルスは全米屈指のビッグマーケットで選手からの人気も高い。資金力、ホームの魅力、そこに球界屈指の眼力を持つフリードマンが辣腕をふるったのだから強くならないはずがない。

対照的なエンゼルスの動き

2014年以降ドジャースがフリードマンの指揮の下着実に戦力を整えたのに対し、その間のエンゼルスはモレノ・オーナーのイエスマンをGMを据えて、オーナー好みのFA選手と長期契約を繰り返していた。ドジャースとはまさに真逆の動きで、有望選手は次々とトレードされてマイナーは枯渇、大金を払って獲得した選手はすぐに衰えて不良債権になっていった。また投打の戦力バランスが悪く、野手には大金を投じるのに、投手の補強は一向に進まなかった。

エンゼルスとドジャースの決定的な差

2020年エンゼルスはジョー・マドンを新監督に招聘した。フリードマンとのコンビでレイズ躍進を支えた名監督と言えよう。しかし所詮監督は試合のコントロールをするのが仕事だ。チームを強化するカギを握るのは監督ではなくGMだ。

エンゼルスは今年ペリー・ミナシアンを新GMに迎えたが、そもそも1年でクビを切られた前任のオースマスは明らかに繋ぎだった。チーム強化の急所であるGMを繋ぎの人材で埋めてしまうところにエンゼルスの根本的な問題がある。

モレノ・オーナーはさすがに各試合の采配までは口を出さないが、選手補強に関してはGMよりも自分の発言権が上だと思っているのは間違いないだろう。つまりモレノはGM職に重きを置いていないし、チーム編成の全権を与えるつもりもない。自分の気に入った選手の獲得に邁進し、そうなったらGMだろうが監督だろうが聞く耳持たずというスタンスでは、仮にフリードマンがGMだったとしてもチーム強化は難しかっただろう。

フリードマンという人材を発掘したドジャースの慧眼には感服するが、それ以上にチーム編成の全権をフリードマンに預けたオーナーの度量の差が結局はドジャースとエンゼルスの決定的な差であろう。

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