考察:なぜドジャースとエンゼルスは10年でこれほど差が付いたのか(2)

2009年と2020年のエンゼルスの選手を比較

最強だった2009年と昨年2020年の戦力を比較してみたい。特に注目したいのは自前で育成した選手がどれくらい働いているかということだ。表中、背景が赤の選手はエンゼルスが自前で指名、育成した選手である。

2009年のエンゼルス

エンゼルスがリーグ最強と言われていた2009年のロースターを振り返ってみよう。2009年は97勝65敗でア・リーグ西地区を3連覇し、2位に10ゲーム差を付ける圧勝のシーズンであった。5年で4度目の優勝というまさにエンゼルスの黄金期である。

先発投手

年齢 勝利 敗戦 防御率 投球回 エンゼルス入団
Jered Weaver 26 16 8 3.75 211 2004年エンゼルス1位指名
Joe Saunders 28 16 7 4.60 186 2002年エンゼルス1位指名
John Lackey 30 11 8 3.83 176.1 1999年エンゼルス2位指名
Ervin Santana 26 8 8 5.03 139.2 2000年エンゼルス アマFA契約
Matt Palmer 30 11 2 3.93 121.1 2009年FA加入

エースのウィーバーが211イニングを投げるさすがの安定感。30歳手前の働き盛りの選手が揃っていた。ローテーション5人中、4人がエンゼルスが自前で指名、育成した選手で、マイナーとメジャーで選手の循環が非常に上手く行っており、リーグでも屈指の先発投手陣を誇っていた。

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ちなみに2009年4月にはブレーク寸前だったNick Adenhartを不慮の交通事故で失っている。彼も2004年にエンゼルスが14巡目で指名して育てた選手だった。

リリーフ投手

年齢 勝利 敗戦 防御率 セーブ 投球回 エンゼルス入団
Brian Fuentes 33 1 5 3.93 48 55 2009年FA加入
Darren Oliver 38 5 1 2.71 0 73 2009年FA加入
Jason Bulger 30 6 1 3.56 1 65.2 2007年FA加入
Kevin Jepsen 24 6 4 4.94 1 54.2 2002年エンゼルス2位指名
Jose Arredondo 25 2 3 6.00 0 45 2002年エンゼルス アマFA契約

2008年まで絶対的守護神だったK-Rodことフランシスコ・ロドリゲスをFAで失い、コンビを組んでいたセットアッパーのスコット・シールズも故障のため2ヶ月でダウン。ブルペンは苦しい布陣となった。
K-Rodの代役として獲得したベテランクローザーのフェンテスは最終的には48セーブを挙げてセーブ王となりオールスターにも出場した。しかし防御率3.93の数字からも分かる通り、K-Rodには遙かに及ばずセーブ失敗を7度も記録、WARはわずか0.4しかなかった。

現在も繰り返している、落ち目のベテランを短期で契約して頭数を揃えるというやり方だが、何度失敗すれば気が済むのだろう?

野手陣

年齢 打数 HR 打点 盗塁 打率 OPS エンゼルス入団
Chone Figgins 3B 31 615 5 54 42 .298 .789 2001年ロッキーズからトレード
Bobby Abreu RF 35 563 15 103 30 .293 .825 2009年FA加入
Torii Hunter CF 33 451 22 90 18 .299 .873 2008年FA加入
Vladimir Guerrero DH 34 383 15 50 2 .295 .794 2005年FA加入
Kendrys Morales 1B 26 566 34 108 3 .306 .924 2005年エンゼルス アマFA契約
Juan Rivera LF 30 529 25 88 0 .287 .810 2009年FA加入
Mike Napoli C 27 382 20 56 3 .272 .842 2000年エンゼルス17位指名
Howie Kendrick 2B 25 374 10 61 11 .291 .778 2002年エンゼルス10位指名
Erick Aybar SS 25 504 5 58 14 .312 .776 2002年エンゼルス アマFA契約

レギュラー野手陣を当時の打順で並べてみた。中軸を打つFA組のアブレイユ、ハンター、ゲレーロが高齢化しつつあったが、下位にはマイナーから育てたモラレス、ナポリ、ケンドリック、アイバーらの若い好打者が並んでいる。全体として3割近く打っている好打者が多く、42盗塁のフィギンスを筆頭に足の速い選手が多く機動力もあった。総ホームラン数こそリーグ平均よりも下だったが、チーム打率.285はア・リーグナンバーワンで、盗塁(3位)、打点(2位)も上位であった。

マイナーのプロスペクト

当時は投手も野手もレギュラーの半数以上が自前で指名、育成した選手であり、ファームもメジャーでトップクラスの質を誇っていた。その頃のマイナーのプロスペクトを見てみると、その後エンゼルスや他チームで主力となっていった選手が多数いた。

2010年シーズン前のエンゼルス・プロスペクト
Garrett Richards 2013年からエース級の活躍もケガに泣く。現在はレッドソックス所属
Tyler Skaggs エース級に成長するも2019年急死
Kevin Jepsen 2002年ドラフト2位。安定感のある中継ぎとして活躍。2015年にマット・ジョイス獲得のためレイズへトレード
Tyler Chatwood 2011年はローテーションを守るも、アイアネッタ獲得のためロッキーズへトレード。現在はブルージェイズ所属
Jordan Walden 豪腕右腕で2011年はクローザーを務め32セーブ、オールスターにも出場。2013年トレードでブレーブスへ
Mike Trout 説明不要!
Peter Bourjos 
俊足好守の外野手。2015年カージナルスに移籍
Hank Conger 
強打が売り物の捕手。2014年アストロズに移籍
Jean Segura
 俊足好打の内野手も、グレインキー獲得のため2012年ブルワーズへトレード
Mark Trumbo 強打の一塁手として頭角を現したが、プーホルス加入で出場機会を失い、2013年にDバックスへトレード。その後2016年にはオリオールズで本塁打王(47本)に。

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トラウト、コンガー、ウォルデン、エイデンハートはMLBのトップ100ランキングにも入っていた。

2011年、一塁には強打の新人マーク・トロンボが台頭したが、夏にはさらにC J. クロンを1位指名して、一塁手の層はかなり厚くなった。にもかかわらずそのオフにはプーホルスと10年契約するなどチグハグな補強が増えていった。GMにはチケットセールス上がりの黒人トニー・リーギンスを起用して話題となったが、結局の所オーナーのイエスマンでしかなかった。この頃から次第にモレノ・オーナーの独断が激しくなり、エンゼルスの迷走が始まったと言えるだろう。

2020年のエンゼルス

昨年はコロナ禍でメジャーの試合は60試合へと大幅に短縮された。エンゼルスは26勝34敗とア・リーグ西地区の4位に沈んだ。これは例年の162試合換算だと70勝92敗となり、1999年(70勝92敗)以来21年ぶりの悪い数字であった。

先発投手

比較のため勝利、敗戦、投球回は162試合換算に補正した数字である。

年齢 勝利* 敗戦* 防御率 投球回* エンゼルス入団
Andrew Heaney 29 11 8 4.46 178 2015年マーリンズからトレード
Dylan Bundy 27 16 8 3.29 176 2020年オリオールズからトレード
Griffin Canning 24 5 8 3.99 151 2017年エンゼルス2位指名
Patrick Sandoval 23 3 14 5.65 97 2018年アストロズからトレード
Jaime Barria 23 3 0 3.62 87 2013年エンゼルス アマFA契約
Julio Teheran 29 0 10 10.05 84 2020年FA加入

最大の課題とされる先発投手陣。1年900万ドルで獲得したテヘランは0勝4敗と全く使い物にならなかった。エースと呼ばれるヒーニーも4勝3敗。実はヒーニーは過去5年一度も防御率が4.0を下回ったことはなく物足りない成績が続いている。年齢からしてもそろそろラストチャンスか。

キャニングとバリアは自前で育成した久々のローテーション投手であるが、頼りになるスターターが他にいないというチーム事情により使われているという印象。

バンディは珍しく当たりの補強だったが、27歳と年齢が若いのが良かったのかもしれない。30歳を超えた選手は例え過去の実績があったとしても手を出すべきではないというのは歴史が証明している。

救援投手

比較のため勝利、敗戦、投球回、セーブは162試合換算に補正した数字である。

年齢 勝利* 敗戦* 防御率 セーブ* 投球回* エンゼルス入団
Ty Buttrey 27 5 8 5.81 14 71 2018年レッドソックスからトレード
Mike Mayers 28 5 0 2.10 5 81 2020年カージナルスからDFA
Felix Pena 30 8 0 4.05 5 71 2017年カブスからトレード
Noe Ramirez 30 3 0 3.00 0 57 2017年レッドソックスからDFA
Matt Andriese 30 5 10 4.50 5 86 2020年Dバックスからトレード
Jacob Barnes 30 0 5 5.50 0 49 2020年FA加入
Hansel Robles 29 0 5 10.26 1 44 2018年メッツからDFA

昨年の主要なブルペンメンバーを見ると、見事に一人も自前で育成した選手がいない。この10年で若手投手を放出し続けたツケが回ってきている。DFAで加入というのは他球団で戦力外と見なされた選手をダメ元で取ってみるというやり方。それで再生できる選手もいるが、そんなゴミ箱あさりみたいな戦略で強いチームが作れるわけがない。エンゼルスのブルペンにはDFA選手が3人もいたんだから推して知るべし。

2021年はマイヤーズ、ノエ・ラミレス、アンドリース、バーンズ、ロブレス、ベドロジャンが退団し、残るのはバトリーとペーニャだけになる。元々とりあえず頭数を揃えるため的な中途半端なメンバーが多かったので、総取っかえはそれほど悪い話ではない。

野手陣

比較のため打数、HR、打点、盗塁は162試合換算に補正した数字である。

年齢 打数* HR* 打点* 盗塁* 打率 OPS エンゼルス入団
David Fletcher 2B 26 559 8 49 5 0.319 0.801 2015年エンゼルス6位指名
Mike Trout CF 28 538 46 124 3 0.281 0.993 2009年エンゼルス1位指名
Anthony Rendon 3B 30 511 24 84 0 0.286 0.915 2020年FA加入
Shohei Ohtani DH 25 414 19 65 19 0.190 0.657 2018年エンゼルス アマFA契約
Justin Upton LF 32 397 24 59 0 0.204 0.711 2017年タイガースからトレード
Albert Pujols 1B 40 411 16 68 0 0.224 0.665 2012年FA加入
Andrelton Simmons SS 30 319 0 27 5 0.297 0.702 2016年ブレーブスからトレード
Jo Adell RF 21 335 8 19 0 0.161 0.478 2017年エンゼルス1位指名
Max Stassi C 29 243 19 54 0 0.278 0.886 2019年アストロズからトレード

期待のアデルはマイナーから昇格させたもののまだメジャーに対応しきれなかった。2021年はマイナースタートになるようだ。自前で育てたレギュラーはトラウトとフレッチャーだけ。あとはトレードやFAでまかなった選手ばかりである。

以上、2020年の戦力を振り返ると、自前で育成して完全な戦力となっているのは実質トラウトとフレッチャーだけである。これでは勝てるわけがない。

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