1月26日の朝にヘリコプターの墜落事故で亡くなったコービー・ブライアント。
コービー・ブライアントはなぜ、ヘリでの移動にこだわったのだろうか?
車で移動すればブライアントの自宅のあるニューポート・コーストからLAダウンタウンのステープルズセンターまでは平日ならば渋滞も考えると1時間半ほどだろう。
スポンサーリンク
LAでNBAの選手ならば、ステープルズセンターのあるダウンタウンに30分程度で行けるビバリーヒルズや、40-50分程度のマンハッタン・ビーチなどに住むのが普通だろう。実際、クリッパーズのスターだったブレイク・グリフィンやデアンドレ・ジョーダンらはマンハッタンビーチに住んでいた。
なぜコービーは距離のあるオレンジ・カウンティに住んでいたのだろうか?子供を通わせたいお気に入りの学校があったのかもしれないし、海が近く自然の豊富なオレンジ・カウンティを愛したのかもしれない。
CNNの報道に寄れば、多くのケガをかかえたブライアントは車に2時間以上乗ることができず、それがヘリでの移動という結論に結びついたようだ。ヘリを使えばオレンジ・カウンティ空港から、片道15分程度でLAダウンタウンまで行けるだろう。
また、彼がヘリにこだわったもう一つの大きな理由は家族と過ごす時間のことである。4人の女児に恵まれたコービーは彼女らと一緒に過ごす時間を確保することにこだわった。アメリカでは子供を学校まで親が車で送り迎えするのが一般的だが、コービーは自分の子供送り迎えは妻に任せず、自分ですることに固執した。私のように、家内に自分の子供の送り迎えを任せっぱなしの人間には耳の痛い話だ。
ちなみにオレンジ・カウンティ空港からロサンゼルス空港まで、ヘリをチャーターすれば片道200ドルくらいからある。ブライアントの乗っていたスペシャルなグレードのヘリならば1000ドル以上はするようだ。もっとも1試合当たり日本円で2000~3000万円稼いだ彼のようなVIPにしてみればほとんど気にならない金額だ。
一度、私も小型セスナ機に乗せてもらったことがあるが、空港の滑走路に面する専用のビルの前に車を駐車して、ビルの1階を素通りすればそこは滑走路。目の前に止まっている目的の飛行機に乗るのに1分とはかからない。もちろん荷物チェックもセキュリティチェックもない。アメリカでのプライベート飛行はなんと便利なものかと感心した。
スポンサーリンク
バスケに打ち込んでも家族との時間も取れる、そんな便利さもあってコービーはヘリでの移動を頻繁に使っていた。それがまさかこのような悲劇に遭うとは・・・
CNNの本サイトにコービーがヘリを利用する理由と、彼の好んだシコロスキーS-76Bについての詳細な記事がアップされている。日本語訳を紹介したい。
The Sikorsky S-76B was built to carry VIPs like Kobe Bryant. Here’s what we know about the helicopte
シコロスキーS-76Bはコービー・ブライアントのようなVIPを運ぶために作られた。このヘリコプターについてわかっていること。
航空専門家によると、カリフォルニアのカラバサスで墜落しコービー・ブライアントと8人の命を奪ったシコロスキーS-76Bは高い信頼性を持つ「馬車馬」として知られており、ロサンゼルス・レイカーズのレジェンドのような高収入な人々を運ぶにはピッタリだった。
日曜日の事故の調査はまだ続行中だが、天候およびフライト情報が示すところではその日の南カリフォルニアは飛行する理想的な条件とはかけ離れていた。
日曜朝の飛行エリアの天候のため、パイロットは特別な許可を得ていた、それはスペシャル・ヴィジュアル・フライト・ルール許可として知られている。エア・トラフィック・コントロールはパイロットに「現時点で、そちらはフォローするには高度が低すぎる」と伝えていたが、意味するところはそのヘリコプターはレーダーで把握するには高度が足りないということだ。
事故の原因は公式にはまだ発表されていないが、ヘリコプターの専門家はヘリの記録を見る限りその安全性には問題がないと言っている。
航空アナリストのマイルズ・オブライアン氏
「このヘリは馬車馬だよ。エクゼクティブにとってこのヘリは空飛ぶリンカーン・タウンカーさ。それこそビジネスヘリ業界が求めるもので、このシコロスキーにはそれがあった。ツイン・エンジンを持ち、信頼性が高く、安全で、能力も優れていた」
信頼性が高くVIPに使われた
シコロスキー・エアクラフト・コープ社は、防衛および航空産業の巨人ロッキード・マーチンが所有し、シコロスキー社によるとS-76シリーズは延べ740万時間の飛行記録を持ち、沖合のオイル/ガスの輸送、救急患者の搬送、著名人の移動、捜索救助などに使われている。
同社の発表では1977年に世に出て以来、S-76シリーズは875機以上が世界に飛び立っており、現在178社が同機を企業向けやVIP輸送に採用しており、元首を運ぶために使っている国も10カ国ある。
カリフォルニアの記録ではブライアントのヘリは1991年製である。ブライアントの機の中がどうなっているかは明らかではないが、シコロスキーによるとS76-Dモデルではパイロット2人と乗客8人を乗せることができる。
ヘリコプターのデータベースによると、この機は2007~2015年までイリノイ州でVIP輸送のために使われていたが、同州知事のブルース・ラウナーが財政的な理由で州の持つヘリを売却した。
バン・ナイズにあるアイランド・エクスプレス・ホールディング・コープ社がこのヘリを買い、尾翼のナンバーもN72EXと変更し、そのナンバーは日曜日に墜落した時に識別された。
2016年4月13日、その日はブライアント現役最後の試合となったユタ・ジャズ戦で彼は60点を記録したのだが、ナイキはこのヘリの前でポーズを取るブライアントの写真を投稿したが、そこにはナイキのロゴとブライアントのトレードマークである「ブラック・マンバ」のロゴが映っており、タイトルは「最後の搭乗 #ManbaDay」となっていた。
シコロスキーは後日リツイートして、「2つのレジェンド、1枚の写真・・・コービー・ブライアントがS76を最後の試合も乗る」と書き込んだ。
これらのツイートは事故後削除されている。
アイランド・エクスプレス・ヘリコプターでかつてパイロットだったカート・ディーツ氏がCNNに語ったところでは、彼は2015-2017年にかけて、この墜落した機で数え切れないほどブライアントを乗せたそうだ。その中には現役最終試合に家から飛んだのも含まれている。ブライアントが好んだこのヘリを操縦できるパイロットはとても少なく、ツインエンジンのヘリを少なくとも2000時間は飛んだ経験が必要とされる。ディーツ氏はアイランド・エクスプレスで働く前はエクソン・モービルで飛行経験を積み、このモデルについて、「とてもラグジュアリーで他のモデルより複雑だが、非常に信頼性の高いヘリだ」と語った。「空から落ちるなんて考えられない。S-76Bは『防弾』みたいなものだよ」
会社はS76機を誇っていた
アイランド・エクスプレス社についてはほとんど何もわかっていない。月曜日の時点でウェブサイトは「制作中」となっている。7月にキャッシュされたバージョンによるとカタリナ諸島へのフライト、チャーター、遊覧飛行、バケーションパックなどの広告が載っている。
カリフォルニアの記録ではアイランド・エクスプレス社のエージェントとなっているフィリップ・ディフォース氏に電話やメールをしてみたが返事はない。同社のアドレスは別の会社である「ロトークラフト・サポート社」へリンクされているが、ディフォース氏はこの会社の社長兼メインテナンス担当役員のようだ。ロトークラフトの誰からもコメントはない。
アイランド・エクスプレスのキャッシュされたサイトにはあの墜落した白と青に塗られたヘリの写真が写っており、「ヘリコプターの世界では最も信用があり、西海岸最大の機であるシコロスキーS-76の操縦を行っています」「このヘリは並ぶもののない信頼性を誇り、飛行記録からも安全性が証明されています」とある。
国家輸送安全局(NTSB)のレポートでは、2013年以降S76による事故の記録はこの日曜日まで一件もなかった。NTSBのデータベースでは少なくても12人以上が亡くなった事故は1979年以降で53件起きている。比較条件は同じにはならないが、他のヘリと比べてもS76の記録は好ましいように見える。例えばBell 407は多目的なヘリで現在数百機が稼働している。NTSBによると、1996年以降Bell 407は130件の事故や墜落を起こしており、その3分の1は死亡事故になっている。
ヘリコプターは健康や家族にとって重要
ブライアントがヘリコプター移動のファンだったことはよく知られている。2010年のGQ誌のインタビューでこのように語っている
コービー・ブライアント
「ロサンゼルスのステープルズセンターでホームゲームのある時は全てオレンジ郡にある自宅からプライベートヘリで移動している。ヘリコプターは自分の身体を維持するツールにもなっているんだ。指を折り、ヒザは悲鳴を上げ、背中は腫れ、足は痛む。慢性的な胸焼けも言うまでもない。だから自分は車に2時間以上座ってられないんだ。そんな自分をヘリはステープルセンターにフレッシュな状態で運んでくれるんだ」
さらに最近の話では、2018年に野球界の元スター、アレックス・ロドリゲスとのインタビューで語ったところでは南カリフォルニアの渋滞で家族との時間が減ったことがヘリを使うきっかけになった。
コービー・ブライアント
「トレーニングをし、技を磨きながらも、家族との時間を削らない方法を考えなくてはならなくなった。そして見つけたのがヘリでの移動だ。その結果トレーニングが終わって15分で帰れるようになった。その時からだよ。
私のルーティンはいつも一緒だった。朝ウェイトトレーニングをして、子供を学校に送り、ヘリで飛び立ち、狂ったように練習して、メディア対応とかその他やらなくちゃいけないことをこなし、ヘリで戻り、車に乗って子供を学校へ迎えに行くんだ」
ブライアントの妻は一度、自分が子供を学校へ迎えに行くと言ったそうだが、ブライアントは自分でやると譲らなかった。その時ブライアントには3人の子供がいた。4人目は昨年生まれたばかりだ。
ブライアントは妻に「ノー、ノー、絶対ダメ。それは自分がやるんだ。君は子供と過ごす機会はいくらでもあるけれど、僕はそうじゃない。たとえそれが車の中での20分だったとしても子供と一緒に過ごすチャンスは全部つかみたいんだ。」と言った。
あわせて読みたい記事
スポンサーリンク