ギャンブル要素の強いメジャーのドラフト?

昨日、MLBのドラフト会議が行われ(初日は1~2巡目まで)、エンゼルスは1巡目(全体15位)でノース・フロリダ州立大学の21歳、ウィル・ウィルソン遊撃手を指名した。また2巡目(全体55位)で地元カリフォルニア州オークレイ高校の17歳、カイレス・パリス遊撃手を指名。投手が必要なエンゼルスが上位指名の2人とも遊撃手という指名結果にはちょっと驚いたが、今年は投手不作の年らしく、全体6位まで全て野手指名だったという。

エンゼルスは選手としての完成度よりも身体能力や将来性を重視して指名した模様だ。しかし高校卒業時にドラフトにかからなかったウィルソンを1位で指名するのはややギャンブル的な要素も強い。

元々MLBのドラフトは不確定要素が強い。何しろ毎年40巡目近くまで指名して、全体で1000人を超える新人が新たにプロの門を叩くのだ。上位指名だからと言って埋もれていく選手は数知れず、ここからメジャー契約を勝ち取り、レギュラーとなり、オールスターに出るほどの一流選手になれるのは一握りも一握りだ。プロになったとしても大部分の者はメジャーに手がかかることなく消えていくのだ。

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ドラフト上位指名は大成するのか?

ここでドラフト順位とその後の成績はどのくらい相関関係があるのかと思い、MVPを獲った選手が何位指名だったのか調べてみた。比較のためにNBAも調べた。NBAも30チームあるのはMLBと同じだが、ドラフト指名は毎年2巡目まで。しかも指名対象は全世界のアマチュアおよびプロの選手となる。NBAは世界でバスケットボールをプレーする何十万人の中からわずか60人しか入れない恐ろしく狭き門の世界なのだ。しかも1チームでスターターと呼ばれるレギュラー選手はわずか5人。その中に新人が割って入るというのは恐ろしく大変なことだと容易に想像できる。

MLBでは1チーム40人のメジャー契約選手がいるので、リーグ全体では1200人ものメジャー選手がいることになるが、NBAは1チーム最大で15人しか登録できず、リーグにはわずか450人しか選手がいない。まさに能力と体力を極限まで研ぎ澄ました選手の世界なのだ。

メジャーのMVPの指名順位

まずメジャーで過去10年にMVPを獲得した選手と入団時の順位を調べた。ナ・リーグ、ア・リーグから1人ずつ選ばれるので延べ20人のMVPがいる。結果はやはり1巡目指名選手が多いのであるが、プーホルスやベッツのような100位以降の選手もいるし、全体1位で指名されてMVPを獲ったのはマウアー、ハミルトン、ハーパーの3人しかいない。ハミルトンやハーパーはMVPを獲ったとは言え、キャリア全体では成績の浮き沈みが激しい。また全体10位以内の選手がMVPを獲った回数は8回である。

MVP年 名前 入団年 指名順位
2009 アルバート・プーホルス(内野手) 1999 13巡目(全体402位)
ジョー・マウアー(捕手) 2001 1巡目(全体1位)
2010 ジョーイ・ボット(内野手) 2002 2巡目(全体44位)
ジョシュ・ハミルトン(外野手) 1999 1巡目(全体1位)
2011 ライアン・ブラウン(外野手) 2005 1巡目(全体5位)
ジャスティン・バーランダー(投手) 2004 1巡目(全体2位)
2012 バスター・ポージー(捕手) 2008 1巡目(全体5位)
ミゲル・カブレラ(内野手) 2009 アマチュアFA
2013 アンドリュー・マカッチェン(外野手) 2005 1巡目(全体11位)
ミゲル・カブレラ(内野手) 2009 アマチュアFA
2014 クレイトン・カーショウ(投手) 2006 1巡目(全体7位)
マイク・トラウト(外野手) 2009 1巡目(全体25位)
2015 ブライス・ハーパー (外野手) 2010 1巡目(全体1位)
ジョシュ・ドナルドソン(内野手) 2007 1巡目追補(全体48位)
2016 クリス・ブライアント(内野手) 2013 1巡目(全体2位)
マイク・トラウト(外野手) 2009 1巡目(全体25位)
2017 ジャンカルロ・スタントン(外野手) 2007 2巡目(全体76位)
ホセ・アルトゥーベ(内野手) 2006 アマチュアFA
2018 クリスチャン・イエリッチ(外野手) 2010 1巡目(全体23位)
ムーキー・ベッツ (外野手) 2011 5巡目(全体172位)

NBAでMVPを獲った選手の指名順位

一方、NBAではサンプルを増やすために過去20年を選んでみたが、明らかに指名順位とMVP獲得には強い相関関係があることがわかる。過去20年で全体1位の選手がMVPを獲ったのが9回もあるのだ。10位以内の指名選手とすると16回に達する。ここ10年に限るとMVPは全て10位以内の選手である。

MVP年 名前 入団年 指名順位
1998-1999 カール・マローン 1985 1巡目(全体13位)
1999-2000 シャキール・オニール 1992 1巡目(全体1位)
2000-2001 アレン・アイバーソン 1996 1巡目(全体1位)
2001-2002 ティム・ダンカン 1997 1巡目(全体1位)
2002-2003 ティム・ダンカン 1997 1巡目(全体1位)
2003-2004 ケビン・ガーネット 1995 1巡目(全体5位)
2004-2005 スティーブ・ナッシュ 1996 1巡目(全体15位)
2005-2006 スティーブ・ナッシュ 1996 1巡目(全体15位)
2006-2007 ダーク・ノヴィツキー 1998 1巡目(全体9位)
2007-2008 コービー・ブライアント 1996 1巡目(全体13位)
2008-2009 レブロン・ジェームズ 2003 1巡目(全体1位)
2009-2010 レブロン・ジェームズ 2003 1巡目(全体1位)
2010-2011 デリック・ローズ 2008 1巡目(全体1位)
2011-2012 レブロン・ジェームズ 2003 1巡目(全体1位)
2012-2013 レブロン・ジェームズ 2003 1巡目(全体1位)
2013-2014 ケビン・デュラント 2007 1巡目(全体2位)
2014-2015 ステフィン・カリー 2009 1巡目(全体7位)
2015-2016 ステフィン・カリー 2009 1巡目(全体7位)
2016-2017 ラッセル・ウェストブルック 2008 1巡目(全体4位)
2017-2018 ジェームズ・ハーデン 2009 1巡目(全体3位)

なぜ野球にはドラフト上位指名選手のMVPが少ないか

野球はプロになってから花開くまで時間がかかる。ほとんどの選手はMVPを取るまで入団から10年近くかかっている。トラウトのように5年でMVPというのは異様なスピード出世なのである。

一方NBAではデレック・ローズやティム・ダンカン、レブロン・ジェームスのように3-5年でMVPを取る選手も複数おり、5~7年ほどでピークに達する選手が多いことがわかる。

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NBAでは若い選手の実力は入団前にかなりの確率で計算が立ち、ドラフト前に格付けされる。そして毎年数人の超エリート選手がドラフト上位確実と言われ、実際に彼らがチームのレギュラーになっていく。今年のNBAの場合、ドラフト全体1位はデューク大学のザイオン・ウイリアムソン選手1択と言われている。入団すれば2-3年でリーグを代表する選手になると予想されている。

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MLBでは入団前からスター確実と言われる選手は極めてマレだ。ここ10年くらいではナショナルズに指名されたハーパーとストラスバーグくらいだろう。ハーパーは今年FAで高額契約をゲットしたものの、実績ではトラウトに遠く及ばず、現在は不振で味方ファンからもブーイングを受けるほどだ。ストラスバーグは故障もあってキャリア9年で94勝51敗、防御率3.14という成績で、「好投手」ではあるがサイ・ヤング賞クラスの活躍にはほど遠い。

つまり、野球はバスケットボールに比べると選手の将来性を読むのが難しい。バスケットボールよりも実力のピークを迎えるまでに時間がかかること、また経験による成長曲線の上昇が後から効いてくることが理由と思われる。逆に言えばバスケットボールには20歳前後でプロに匹敵するスキルを持つ選手が多く存在するということだろう。

(全体60位までしか指名順位のないNBAと、全体1000位まであるMLBでは上位選手が活躍する確率はNBAが圧倒的に高いのは承知の上で、あえて比較してみた次第である)

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1件のコメント

  1. ドラフトといえば、2013年ドラフトでヤンキースから2位指名を受け現在3Aでメジャー昇格を目指してるユーリティー選手の加藤豪将くんの今後が気になります。(1位は2017年新人王のアーロンジャッジ選手)
    4月にはヤンキース主力選手たちの故障が相次ぎ、もしかしたら今シーズン昇格できるのではないかと日本でも話題になりましたが、大谷選手が復帰した途端に加藤選手の話題は埋もれてしまいました。
    ただ、7月以降になれば各チームによってはチーム再建のトレードで他球団に引き抜かれてそこからメジャー昇格というチャンスもありますので、目が離せないところです。
    フレッチャー選手やラステラ選手の成功例を見ると、エンゼルスに来てもらえたらなぁって思うんですが(笑)

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