アルトゥロ・モレノ(76歳)
大谷選手の入団で注目を浴びるエンゼルスを、裸一貫から買収してオーナーになったアルトゥロ・モレノとはどんな男なのか
アリゾナ州出身。メキシコ系移民の子で、ヒスパニックとして初めて、アメリカのプロスポーツチームのオーナーになった。
2003年のシーズン中にエンゼルスを前オーナーのディズニーグループから買収した。ちなみに前年の2002年にエンゼルスはチーム史上初のワールドシリーズ制覇している。買収価格は1億8000万ドル(約160億円)だったが、今ではその5倍になっていると言われている。
貧しいメキシコ系移民の子であったが、野外広告のビジネスに成功し、会社上場、球団買収とアメリカンドリームを体現している。社員として入社した広告会社では10年足らずの間に、会社の利益を50万ドルから900万ドルにしたという超凄腕の営業マンだった。
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子供の頃から野球好きで、球団買収は永年の夢だったという。一野球ファンとして経営する姿勢はファンの間で高い支持を得ている。例えばチケット価格や球場内のビールが高すぎるとして値下げに踏み切ったことはモレノを語るエピソードとしてよく知られている。ホーム、アウェイを問わず、ほとんどのエンゼルスの試合を観戦している。ホームではオーナー席からしばしば抜け出して、ファンとコミュニケーションしている姿がよく見られた。
バーノン・ウェルズ事件
しかし同時に選手獲得やチーム運営に対してしばしば口を挟み、それが逆にチームの弱体化を招いたという批判も強い。象徴的な例がトロント・ブルージェイズから2010年のオフにトレードで獲得したバーノン・ウェルズ外野手だ。ウェルズは成績に見合わない巨額の契約が4年も残っており、ブルージェイズの不良債権と思われていた。
しかしモレノはウェルズの獲得を強力に働きかけ、当時のGMトニー・リーギンスに対して「24時間以内にウェルズを獲得しなければ、お前はクビだ」と伝え、リーギンスはやむなくトレードに動いた。交換選手は当時長打力を売りに伸び盛りの捕手マイク・ナポリだった。このトレードは酷評され、「エンゼルスは史上最悪のトレードをした」「ウェルズを獲るくらいなら何もしないほうがマシだった」と言われるほどだった。
実際、翌2011年のウェルズの成績はどん底もいいところで、わずか1年ほどでレギュラーの座を追われ、退団、引退することになった。そして気の毒なことだが、リーギンスはウェルズ獲得と成績不振の責任を取らされ、オフに退団に追い込まれた。一方で放出したナポリは主軸を打つほどに成長し、しばしばエンゼルス戦でも痛打を浴びせた。その後球団を渡り歩きながら2017年まで現役を続けた。実働12年で267本塁打、通算OPS .821は立派の一言だ。
ジョシュ・ハミルトン事件
2012年オフにはこれまたモレノの強い意向でテキサス・レンジャースの主砲ジョシュ・ハミルトンと5年12500万ドルでFA契約した。しかしこれもまた大失敗の補強となった。当時からハミルトンは薬物やアルコール中毒問題を抱えていた。エンゼルスではケガと成績不振に苦しみ、離婚を機に再びドラッグやアルコールに手を出してしまった。この時多くのチームメートはハミルトンを手助けしようとしたが、モレノは容赦せず給料のほとんどを負担する形でレンジャーズへ出戻りさせてしまった。その後レンジャース戦では実質的に給料を払っているハミルトンにしばしば痛打を浴び、エンゼルスファンを苛立たせた。2017年でようやくハミルトンの契約は終了し、エンゼルスはハミルトン問題から開放された。
アルバート・プーホルス問題
2011年オフ、FAのアルバート・プーホルスと10年2億4000万ドルというメジャー史上2位の巨額契約を結んだ。すでに32歳になろうとしているプーホルスと10年契約はさすがに無謀と思われたが、モレノの強い希望で獲得に至った。
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プーホールスは40歳を超えてもエンゼルスの主砲を任されていたが、移籍後は期待された成績には程遠く、カージナルス時代の輝きを一度も放てなかった。最後の数年は足の故障に苦しみ、打率も2割台前半、ホームランも20本前後にまで低迷してしまった。そして最終年10年目の5月にはDFAされ、チームを放逐されてしまった。
チームはさらにアンソニー・レンドーンが次期不良債権として控えており、メジャー30球団の中でも毎年ベスト10に入る年俸を支払っているにもかかわらず強化が進まない。つまり資金を全く効率的に使えない体質になってしまっている。
贅沢税支払いを拒否
モレノはいわゆる贅沢税を支払うことを一貫して拒否している。トラウト、レンドーンの大型契約を抱え、上位3-4人の選手の年俸でチーム総年俸の6割を超えるといういびつな年俸構成になっているためそれ以外の選手へ資金が回ってこない。そこへ大谷と長期契約をするにはいわゆる贅沢税ラインを突破して支出することは避けられないとみられているが、これまで頑なに贅沢税ライン保持してきたモレノに大谷の首を縦に振らせることが出来るだろうか?
球団弱体化
これらの大物選手の獲得に伴って、若手の放出によるファームの弱体化、サラリー高額化による球団経営の圧迫を招いたという批判は根強い。実際2010年前後はプレーオフの常連だったのに、ここ7年はプレーオフにも進出できていない。10年前はドアマットチーム(他者に踏みつけられるだけの弱いチーム)だったヒューストン・アストロズが若手の育成に成功し、ワールドシリーズを制覇したのと対象的に、エンゼルスのチーム力は長期低落傾向から脱していない。
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もちやはもちやと言う日本の格言があります。つまり金は出しても口は出すな。と言う事です。言ちゃーなんだけどレンドーも随分高い買い物をしたと思います。まあ大谷選手次第ですが 今後FAの権利を取得した時 果たしてエンジェルスに残るでしょうか?他球団では既に大谷選手獲得に水面下で動いているやもしれませんね。何れにしても彼は日本の宝です。大切に見守りたいですね。
コメントありがとうございます。
大谷選手、エンゼルスを出て行くイメージはないですね。二刀流という特殊な起用方法なのでどんなに実力があっても、チーム内で自分の立ち位置についてチームメートの理解を得るのは簡単ではないですから。移籍するとまた一からそのプロセスを踏まなければならないというのは移籍することのかなりの精神的な障害になりそうに思います。
記事が物凄くよく纏まっていて、知りたい情報をしっかり得ることができました。
現地に住んでいることのアドバンテージに胡坐をかかず、日本にいるであろう読者のことをイメージしながら書かれているのが伝わってきます。
文才もさることながら、オールラウンドのセンスが高い方なんでしょう。
ありがたや!
ご訪問ありがとうございます。
年齢情報などアップデートしました。